記憶力を高めるために記憶の仕組みを学習しよう
皆さんも
- 学校のテストで良い点を取りたい
- 仕事の生産効率を上げたい
と思うときがありませんか。
では、どのようすれば学校のテストの点数や仕事の生産効率を上げられるのでしょうか。
解の一つに「記憶力の向上」が挙げれます。
記憶力が良い人は物事を覚えるのが早いため、記憶力が悪い人よりも経験値が上がるのが早いです。
経験値が増えれば、それに伴い知識も増えるので
- 学生 → 勉強がただの暗記では無く理解力が深まる
- 社会人 → 仕事の幅が広がり、身に付いた知識を応用して仕事に取り組める
「記憶力の向上」は、一朝一夕に出来るも事ではありませんが、記憶というものを多角的に見いていく事で、「記憶力の向上」のヒントになると思います。
この記事では
- 記憶の種類
- 記憶の保存
- エビングハウスの忘却曲線
- 効率的な学習方法
それぞれに分けて解説していきます。
記憶の種類
人の記憶の分類については、多くの研究者が研究を重ねて様々な分類方法を提唱しています。
この記事では、世界的に知られた記憶分類モデルである
「スクワイア(Larry Ryan Squire:1941年〜)の記憶分類」の分類を紹介します。
スクワイアの記憶分類は、記憶を3つに分類しています。
- 感覚記憶(sensory memory)
- 短期記憶(short term memory)
- 長期記憶(long term memory)
感覚記憶(sensory memory)
感覚記憶とは意識には上らないが、感覚器官で瞬間的に保持された記憶の事です。
感覚器官とは外界からの刺激を感受して神経系に伝える器官の事で、
- 視覚器官
- 聴覚器官
- 嗅覚器官
- 味覚器官
- 皮膚等
の事を指します。
情報処理の程度に応じて短期記憶、長期記憶へ変換されます。
また、刺激の形式によって、
- 聴覚に刺激を受ければ・・・音声
- 視覚に刺激を受ければ・・・視像
として保持され、受け取った刺激の情報をほぼそのまま記憶しますが、処理されなければすぐに失われます。
- 視覚では1秒間弱
- 聴覚では約4秒間
保持され、その情報量はかなり多いとされています。
テレビや映画の映像を連続して認識できるのは感覚記憶の効果によるものとされています。
街中を歩いていると、視界には様々な物(人、ビル、看板等々)が入ります。
意識せずとも、通り過ぎた様々な物(人、ビル、看板等々)は、
- 視覚が刺激を受ければ
- 1秒程、視覚器官に情報が残り
- 意識に上がらなければ、その情報はすぐに失われます。
短期記憶(short term memory)
短期記憶とは外部刺激のうち意識を向けた情報を脳内の海馬で短時間保存出来る記憶です。
感覚器官に外部刺激が感受されると
- 感覚器官に感覚記憶が瞬間的に保持
- 感覚記憶のうち意識された情報が電気信号に変換され、脳の神経細胞ネットワークを駆け巡る
- 脳の短期記憶を司る領域(海馬)に短時間保存
このようなプロセスを経ます。
神経細胞(ニューロン)
外部刺激が感受され、意識された情報を電気信号に変換し、脳の神経細胞ネットワークを駆け巡る働きをしているのは、神経細胞(ニューロン)です。
覚える・考える等々の高度な事は神経細胞を通して起こっており、神経細胞同士で情報(電気信号)を受け渡ししています。
神経細胞には、
- 光や機械的刺激などに反応する・・・感覚細胞
- 筋繊維に出力する・・・運動神経の細胞
もあります。
神経細胞の構造は
- 細胞体・・・細胞核などの細胞小器官が集中し、樹状突起と軸索が会合する部位
- 樹上突起(じゅじょうとっき)・・・他の神経細胞から、情報(電気信号)を貰う場所。一つの神経細胞に、樹状突起は何本もありうる。
- 軸索(じくさく)・・・他の神経細胞に情報(電気信号)を渡す場所。一つの神経細胞に軸索は基本的には一本しかない。
から成り立っており、物を覚える等々脳を使うと、神経細胞ネットワーク(連鎖)が
- 太くなったり
- 機能を高めたり
- 新しく形成されたりします
この脳内にある神経細胞ネットワークこそが記憶の正体なのです。
シナプス
シナプスとはニューロンと他のニューロンとの接合部分になります。
神経細胞ネットワーク間は信号の形で伝達されます。
軸索と樹状突起が接続した部分にはすき間(シナプス)があり繋がっていません。
神経細胞の電気信号がシナプスに到達すると、
- 手前の細胞から神経伝達物質と呼ばれる化学物質が放出
- 次の細胞の表面にある受容体(レセプター)という受け皿でキャッチされて電位が発生
- その量が一定以上になると活動電位(電気信号)が発生
このような流れで情報(電気信号)が伝わります。
長期記憶(long term memory)
記憶材料の提示後,比較的長い期間保持されている記憶で大脳皮質に保存されます。
長期記憶の保持内容も忘却しますが,それは
- 他の記憶が干渉することで記憶が失われる
- 記憶自体は残っているが検索してアクセスできなくなる
といったことが考えられています。
長期記憶は、大きく
- 宣言的記憶
- 手続き記憶
に分類されます。
宣言的記憶
事実やエピソードを憶える記憶です。
意識して口に出すことができる記憶であることから、陳述記憶と呼ばれることもあります。
宣言的記憶の例としては、
- 家族の名前や誕生日などの個人的な事実
- 言葉の意味などの社会的に共有する知識の記憶
- 授業で習った内容など
が挙げられます。
手続き記憶
技術やノウハウに関する記憶です。
意識しなくても記憶を使うことができる一方で、意識して言葉で説明することが難しく、非陳述記憶と呼ばれることもあります。
手続き記憶の例としては、車の運転、スポーツの身体の動かし方などに関する記憶が挙げられます。
記憶の保存
「記憶力の向上」の鍵は
- 単語
- 事象
- 作業 等々
を長期記憶で保存する事です。
外部刺激の情報が
- 感覚記憶
- 短期記憶
- 長期記憶
と移行するおおまかな流れは
- 外部刺激が感受
- 感覚器官に感覚記憶が瞬間的に保存
- 感覚記憶のうち意識された情報が電気信号に変換、脳の神経細胞ネットワークを駆け巡る
- 脳の短期記憶を司る領域(海馬)に短時間保存
- 短期記憶のうちリハーサル等々が実施された情報が長期記憶を司る領域(大脳皮質)へ移行され保存
というようになります。
海馬
海馬は長期記憶を保存しませんが、長期記憶を作り出す際にも重要な役割を果たしています。
大量の情報はまず海馬に集まり、海馬でその情報が必要か不必要かの選別が行われ、必要なものだけが大脳皮質に保管されます。
海馬でその情報が必要か不必要かの選別が行われる基準は「その情報が生きていくために不可欠かどうか」という点です。
- 食べ物
- 危険に関係する情報
が何よりも優先されます。
しかし、生死に関わらない情報でも、何度も繰り返し脳に情報を送り続ける事で、海馬に「この何度も送りこまれる情報は生きるのに必要」と勘違いさせ重要な情報と思わせる事で学習効果を高められます。
また、インパクトのある出来事は記憶に残りやすく、喜びや恐怖の感情などは、海馬の近くの扁桃体(へんとうたい)という器官の働きが影響しており、喜怒哀楽といった感情が伴うと覚え易くなります。
海馬に保存されている短期記憶から長期記憶を司る大脳皮質に移行させる事が記憶の定着において重要になってきます。
エビングハウスの忘却曲線
「記憶力を向上」させるという事は、「忘れない」という事です。
人間はコンピュータと同じく情報を電気信号によって記録を脳内に保存していますが、両者の決定的な違いは
- コンピュータ・・・記憶した事は忘れない
- 人間・・・記憶した事でも忘れてしまう
この点が大きな違いです。
- 運動
- 勉強・仕事
それぞれの学習において、「忘れる」という事は、
- 効率的な運動動作
- 知識を長期記憶に定着
が出来ずに、その情報を失ってしまうという事です。
では、どのようにして「忘れる」事を防げばいいのでしょうか。
その答えは海馬にあります。
海馬で保存された短期記憶はリハーサルを繰り返すことで、長期記憶として大脳皮質に保存され「忘れる」事を防いでくれます。
短期記憶から長期記憶へ移行する為には、どのタイミングでリハーサルをすることが効率的なのでしょうか。
ヒントは19世紀ドイツの心理学者のヘルマン・エビングハウスが行った「記憶に関する実験」にあります。
実験内容は
- 子音・母音・子音で構成される無意味な音節を一定数記憶する([rud]、[mab]、[poq]等々)
- 一定時間が経過するごとに、記憶した音節をどれくらい覚えているか確認する
具体的には
- 母音で分けられた2つの子音で構成される「無意味な音節」を約2,300枚紙に書き、その紙を目隠し箱の中にいれます。
(エビングハウスはドイツ人なので、母音は11個(auやeuを含む)、子音は19個(chやschを含む)) - その「無意味な音節」を箱から無作為に何個か(少なくて10個、多いときは36個)を取り出し、メトロノームの音に合わせて一定の間隔で読み上げ記憶します
- 最初から最後まで繰り返し読んで、間違えずに2回暗唱できたら覚え終わった(学習が完了した)として、次の組に移ります。
- これを8組(~13組)まで行います。
- 全部の組を覚え終わったら、かかった時間と、覚えるまでに繰り返した回数を記録します。
- 20分後にもう一度記憶し直し、再び全部の組を覚え終わるまでの時間と回数を記録します。
このエビングハウスが行った実験から
- 20分後:節約率58%
- 1時間後:節約率44%
- 1日後:節約率34%
- 1週間後:節約率23%
- 1ヶ月後:節約率21%
という結果が得ることが出来ました。
この結果を受けてインターネット上でY軸に「覚えている割合」「記憶保存率」となっているものが多く散見されますが、これはエビングハウスの忘却曲線の解釈を間違えています。
Y軸を「覚えている割合」だとすると、このグラフの解釈は初め100%覚えたものは20分後には42%忘れてしまうとなります。
英単語の例でいうと、英単語100個覚えても、20分後には42個は忘れているという事です。
エビングハウスの忘却曲線から得られる考察はそのようなものではありません。
エビングハウスの実験には節約率という考え方を取り入れているということです。
節約率
節約率とは、ある程度時間をおいてから再び記憶するまでにかかる手間をどれだけ節約できたか?ということを表すものであり、
(節約率) = (節約された時間又は回数) ÷ (1回目に必要だった時間又は回数)
(節約された時間又は回数) =(1回目に必要だった時間又は回数)- (覚え直すのに要した時間又は回数)という式で表されます。
どういう事かというと、例えば最初に[さうき]、[もえな]、[ばあわ]、[にいろ]、[ほおり]等々の文字を全部覚えるまでに10分掛かったとします。
次に、1時間後全く同じ内容を覚えなおすに約7分掛かったとします。
この場合、最初の10分に対して、1時間後は7分で覚えなおせたので、上記の式に則ると
(節約された時間又は回数) =(1回目に必要だった時間又は回数)- (覚え直すのに要した時間又は回数)
= 10(分) - 7(分)
= 3(分)
3分短縮(節約)できたことになり、節約率は
(節約率) = (節約された時間又は回数) ÷ (1回目に必要だった時間又は回数)
= 3(分) ÷ 10(分)
= 30(%)ということになります。
無意味な音節([rud]、[mab]、[poq]等々)を50個を全部覚えるために、最初に100回紙に書いて記憶出来たと仮定した場合に、
(節約率) = (節約された時間又は回数) ÷ (1回目に必要だった時間又は回数)
20分後:58% = X(回) ÷ 100(回)→ X = 58(回)
1時間後:44% = X(回) ÷ 100(回) → X = 44(回)
1日後:34% = X(回) ÷ 100(回)→ X = 34(回)
1週間後:23% = X(回) ÷ 100(回)→ X = 23(回)
1ヶ月後:21% = X(回) ÷ 100(回)→ X = 21(回)
(節約された時間又は回数) =(1回目に必要だった時間又は回数)- (覚え直すのに要した時間又は回数)
20分後:58(回) = 100(回) – X(回) → X = 42(回)
1時間後:44(回) = 100(回) – X(回) → X = 56(回)
1日後:34(回) = 100(回)- X(回) → X = 66(回)
1週間後:23(回)= 100(回)- X(回) → X = 77(回)
1ヶ月後:21(回)= 100(回)- X(回) → X = 79(回)
無意味な音節([rud]、[mab]、[poq]等々)を50個を全部覚えるために必要な試行回数は
- 20分後・・・42回で記憶
- 1時間後・・・56回で記憶
- 1日後・・・66回で記憶
- 1ヶ月後・・・79回で記憶
となります。
「1ヶ月後」には「20分後」の試行回数の2倍近くの試行回数を重ねる必要があります。
このエビングハウスの忘却曲線の前提条件が「子音・母音・子音で構成される無意味な音節を一定数記憶する」等の実際の学習では有り得ない状況ですが、人間の忘却の度合いを数値化した興味深い結果ではあります。
効率的な学習方法
- 運動
- 勉強・仕事
は短期で劇的に
- パフォーマンス
- 知識・作業能力
が向上するものではありません。
中・長期(2週間〜)的な時間を掛けて学習・トレーニングしていく必要があります。
中・長期的に学習・トレーニングを行うので、
- ただ我武者羅な学習・トレーニングに取組むより
- 効率的な学習方法で学習・トレーニングに取組む方が
パフォーマンス、知識・作業能力に大きな差がでます。
海馬を利用した学習方法
海馬は何度も繰り返し脳に送り続けられる情報を「この何度も送りこまれる情報は生きるのに必要」と勘違いし大脳皮質に送ろうとします。
海馬は1ヶ月かけて情報を整理整頓していると考えられており、その間にリハーサルすることが大切です。
具体的には、
- 学習した翌日に1回目
- その1週間後に2回目
- 2回目の復習から2週間後に3回目
- さらに3回目の復習から1か月後に4回目
このように少しずつ間隔をあけ、リハーサルをすれば長期記憶として大脳皮質に保存される可能性が高まります。
しかし、中学生や高校生が定期試験の2ヶ月も前から準備するのは厳しいでしょう。
学校の定期試験で、
- 良い点を取り
- 且つ勉強準備期間がなるべく少なくする
最適解はどこのなのでしょうか。
ここで、思い出したいのがエビングハウスの忘却曲線の節約率。
エビングハウスの忘却曲線による記憶の1日後の節約率33%なので、試験前日まで毎日勉強すると仮定すると、1回目に必要だった時間または回数(試行回数)を100(回)とすると12日目には1(回)になっています。
つまり、約2週間前から勉強を始めれば良い結果が得られる事になります。
出力を重要視した学習方法
脳は出力(アウトプット)を重要視します。
- スポーツ・・・練習で反復練習したものを、
- 実戦練習
- 試合
で使う。
- 勉強・・・学習した範囲の部分の類似テストを実施する
等々、対策は考えられます。
これは有名なスワヒリ語の実験で明らかにされたものですが、
- 被験者にある単語を暗記
- 被験者が確認テストを実施
その後、被験者を次の4つのグループに分け、それぞれ
- すべての単語を暗記、すべての単語を再テスト
- 間違えた単語のみ暗記、すべての単語を再テスト
- すべての単語を暗記、間違えた単語のみ再テスト
- 間違えた単語のみ暗記、間違えた単語のみ再テスト
この4つのグループを1週間後に再テストすると、
- 1、2の2グループの覚えた単語数は
- 3、4の2グループの覚えた単語数の
2倍以上の差がありました。
違いは、すべての単語を再テスト = 出力(アウトプット)したかどうかです。
記憶を定着させる為には、入力(インプット)回数だけでなく出力(アウトプット)回数が重要になってきます。
興味を持った学習方法
扁桃体(へんとうたい)の活動によりLTP(長期増強)が起きやすくなるという説もあります。
記憶は2つの神経細胞間にあるシナプスに貯えられていると信じられていおり、LTP(長期増強)を起こすことで記憶を効率的に定着させるというロジックです。
では、どのようにしてLTP(長期増強)を起こすのか。
ポイントはシータ波(脳波の一種)です。
シータ波が出ている海馬では、少ない回数の刺激でLTP(長期増強)が起きる事が分かっています。
- ワクワク
- ドキドキ
等の好きなことをしているときに出ています。
要は、興味のあるものは簡単に覚えられる、という事です。
歴史等の事象を記憶する際も、ただ単純に暗記するのではなく、その歴史の事象が起きた背景に興味を持ちながら、学習を進めることで脳への記憶の定着が高まるという事です。
空腹時の学習
空腹時は記憶力が高まります。
空腹時にはグレリンというホルモンが胃から放出され、それが血管を通って海馬に届き、LTP(長期増強)を起こりやすくさせるのです。
効率的な学習方法のまとめ
記憶の特性を考慮すると
- 計画的な学習の繰り返し(反復)
- 出力(アウトプット)型の学習を意識
- 学習に興味を持つ
- 食事のタイミングを考慮
が効率的な学習方法ということになります。
「記憶力の向上」は、魔法の如く瞬間的に上がるわけではありません。
しかし、記憶の特性を意識することで、効率の高い学習が可能となります。
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