日本銀行券の通貨発行権はどこにあるのか




日本銀行券の通貨発行権はどこにあるのか

「お金」と聞いて頭の中でイメージする「モノ」は何でしょうか?

日本銀行券

日本人の多くが、この日本銀行券をイメージするのではないでしょうか?

この日本銀行券の発行権は誰にあるのでしょうか。

「日本政府に決まってるじゃないか」という声が聞こえてきそうですが、半分正解で半分不正解です。

日本政府に日本銀行券の発行権があるなら

  • 国民から税金を集める必要
  • 国家予算を組む必要

が無くなりますし、また、日本経済を成長させるために、

  1. 日本銀行券を無限に印刷
  2. 公共事業として民間に業務委託
  3. 政府から民間に資金を供給

する事で、民間企業の売上が伸び

  • 従業員の給料増 → 個人消費の拡大
  • 設備投資増加 等々

が期待出来ます。

日本が、

  • 資源大国
  • 外国に対して輸出入する必要なし
  • 日本の経済成長に外国の存在が必要なし

上記の条件を揃えているのであれば、日本政府が無限に日本銀行券を発行する事に誰も文句を言わないでしょう。

しかし現実は違います。日本は

  • 生活する為に「原油」「食物」等の生活必需品を海外から輸入する必要があり
  • その輸出・輸入をする為には、「アメリカドル」「ユーロ」等の外貨も決済通貨が必要
  • 「アメリカドル」「ユーロ」を手に入れる為には、海外にモノ・サービスを輸出する必要があり

海外国と貿易せずして、日本の生活水準の安定・発展は成しえません。

また、日本政府が日本銀行券を無限に刷れるとしましょう。

その状況を見た海外の国はどう思うでしょうか?

  • 「無限に刷れる日本円に価値はない」
  • 「困った時に、いつでも刷れる紙幣は信用できない」
  • 「日本円を貿易決済の通貨にしたくない」

となる可能性が高いです。

前置きが長くなりましたが、つまり、日本銀行券の発行権が日本政府にあると、懐事情に困ったときにいつでも日本銀行券を刷る事が可能になり、海外からの日本円の信用が無くなってしまいます。

では、日本銀行券の発行権は誰にあるのでしょうか。

日本銀行

日本銀行

日本銀行券の発行権は日本銀行(以下、日銀)にあります。

日銀は日本銀行法(1997年法律第89号)に基づく財務省所管の認可法人(財務省設置法4条59号)であり、日本国の中央銀行です。

認可法人・・・特別の法律に基づいて数を限定して設立され、かつ、その設立に関し行政官庁の認可を要する法人

日銀は日本銀行法という特別な法律に基づき、財務省の認可を得て設立した法人になります。

「財務省の認可を得て設立された法人」の時点で、政府(行政)機関から独立していないように見えます。

日本銀行の独立性

日本銀行法第3条第1項では、「日本銀行の通貨及び金融の調節における自主性は尊重されなければならない」とされ、金融政策の独立性について定められています。

また、同第5条第2項では、「日本銀行の業務運営における自主性は、十分配慮されなければならない」として、業務運営の自主性について定められています。

日本は法治国家ですので、政府といえども法律違反をすれば罰せられます。

よって、日本政府は日銀に干渉できません。

と言いたいところですが、金融政策に関して、日本銀行法第4条で、「政府の経済政策の基本方針と整合的なものとなるよう、常に政府と連絡を密にし、十分な意思疎通を図らなければならない」としています。

つまり、日銀は政府から独立した認可法人ですが、金融政策を行う際には、政府の経済政策の基本方針と整合を取るために、政府と密に連絡をとる必要があるという事です。

上場企業の日本銀行

日本銀行の資本は

  • 公的資本
  • 民間資本

により存立します。

民間出資というと、株式会社の様な買収や経営権獲得の話が出てきますが、日銀は認可法人で日本銀行法によって守られており、そのようなことは出来ません。

また、日銀は株式会社東京証券取引所が運営するジャスダックに上場されており、株式に準じた「出資証券」が、個人でも証券会社を通じて取引されています。

 日本銀行株式会社
設立根拠法日本銀行法会社法
出資持分を表す有価証券出資証券株式
自益権・残余財産の分配請求権も払込資本金額等の範囲内に限定
(法第60条第2項、附則第22条第2項)
・剰余金の配当は払込出資金額に対して年5%以内に制限
(法第53条第4項)
共益権
自益権・・・配当や残余財産の分配など経済的な利益を受ける権利

共益権・・・議決権など会社の経営に参加する権利

国立印刷局

国立印刷局

日本銀行券の発行権は日銀にありますが、実際に日本銀行券を刷っているのは日銀ではなく、国立印刷局になります。

国立印刷局は、紙幣・切手・旅券・郵便貯金通帳・証券類・政府刊行物等の印刷を主に行う独立行政法人です。

独立行政法人とは、法人のうち、日本の独立行政法人通則法第2条第1項に規定される

  • 国民生活及び社会経済の安定等の公共上の見地から確実に実施されることが必要な事務及び事業
  • 国が自ら主体となって直接に実施する必要のないもののうち、民間の主体にゆだねた場合には必ずしも実施されないおそれがあるもの
  • 主体に独占して行わせることが必要であるものを効率的かつ効果的に行わせること

を目的とした、この法律及び個別法の定めるところにより設立される法人とされています。

掻い摘んで言うと、

  • 国民の生活の為に必要な事業
  • 政府が主体となって「その事業」を実施する必要はない
  • かと言って民間企業に任せて「その事業」を放棄されても困るので
  • 独立行政法人通則法、又は個別法を定めて

その範囲内で「その事業」を行う法人

国立印刷局の例で言うと、

  • 紙幣を印刷する事業は、国民の生活の為に必要な事業
  • 政府が直接取り組む必要がなく
  • 日本銀行券の紙幣の印刷を民間に委託して、その受託業者が、「印刷業は儲からないから辞めます」となると、国民の生活に支障が生じる

ので、独立行政法人という形で事業を運営するという事です。

独立行政法人には

  • 中期目標管理法人
  • 国立研究開発法人
  • 行政執行法人

とあり、国立印刷局は行政執行法人です。

行政執行法人の役職員は国家公務員とされていますので、国立印刷局で働く人は国家公務員になります。

造幣局

造幣局

紙幣の発行権は政府から独立している認可法人の日銀が持っていますが、

  • 500円
  • 100円
  • 10円 等

の硬貨の発行権も日銀にあるのでしょうか。

実は、硬貨の発行権は日本政府(財務省)にあります。

実際の造貨は独立行政法人の造幣局が行なっています。

お金を発行する権利が政府にあれば、日本円の信頼が無くなると言いましたが、硬貨の発行が日本政府(財務省)に許されているのは、硬貨を量産しても市場に与える影響は小さいからと言われています。

 硬貨 紙幣
発行権政府日本銀行
場所 造幣局国立印刷局
組織形態行政執行法人である独立行政法人行政執行法人である独立行政法人
所管財務省財務省
  • 紙幣には日本銀行
  • 硬貨には日本国

それぞれ書かれています。

日本銀行券と硬貨

紙幣・硬貨の原価

紙幣・硬貨の原価

  • 国立印刷局
  • 造幣局

によりそれぞれ製造される

  • 紙幣
  • 硬貨

の総原価はいくら位なのでしょうか。

紙幣の製造原価

紙幣の総原価は、

  • 紙幣の年間発行枚数
  • 発行体(国立印刷局)の年間予算 or 年間決算

の情報を利用して計算出来ます。

紙幣の年間予定発行枚数は下記の通りです。

種類 枚数(単位:百万枚)金額(単位:億円)
一万円92092,000
五千円32016,000
千円1,76017,600
3,000125,600

国立印刷局の年間予算は下記の通りです。

2020年度予算
(単位:百万円)
区分銀行券等事業官報等事業法人共通法人全体
収入業務収入63,50011,760-75,260
その他収入--438438
63,50011,76043875,698
支出人件費支出28,6794,2046,07738,959
原材料支出6,744380-7,123
その他業務支出10,1712,2175,82018,207
施設整備費15,6491,89886318,410
61,2438,69812,75982,700

国立印刷局の

  • 原材料支出
  • 人件費支出
  • その他業務支出
  • 施設整備費支出

のそれぞれの支出額を

  • 1,000円
  • 5,000円
  • 10,000円

の発行枚数で按分して総原価を算出します。

紙幣原材料
(千円)
人件費
(千円)
その他業務
(千円)
1,000円2,068,1608,794,8933,119,106
5,000円719,3603,059,0931,084,906
10,000円3,956,48016,825,0135,966,986
合計6,744,00028,679,00010,171,000
施設整備費
(千円)
発行枚数
(千枚)
1,000円4,799,026920,000
5,000円1,669,226320,000
10,000円9,180,7461,760,000
合計15,649,0003,000,000
1枚当たり製造原価
(円)
1枚当たり利益
(円)
1,000円20.41979.59
5,000円20.414,979.59
10,000円20.419,979.59

紙幣1枚の総原価は、20.41円程度ということになります。

20.41円の総原価の紙幣を10,000円の価値があると信じて、物・サービスを購入しています。

また、日本銀行法第46条2項に「日本銀行が発行する銀行券は、法貨として無制限に通用する」として法的根拠もあります。

硬貨の製造原価

硬貨の総原価を知るためには、紙幣同様

  • 硬貨の年間発行枚数
  • 発行体(造幣局)の年間予算 or 年間決算

の情報を利用して計算出来ます。

硬貨の年間予定発行枚数は下記の通りです。

種類 枚数(単位:千枚)金額(単位:千円)
一万円43430,000
千円212212,000
五百円108,00254,001,000
百円 527,65652,765,600
五十円28,0001,400,000
十円360,0003,600,000
五円 20,000100,000
一円1,0001,000
1,044,913112,509,600

造幣局の年間予算は下記の通りです。

2020年度予算
(単位:百万円)
区分貨幣製造事業 その他の事業法人共通
収入業務収入16,799 15,706-32,505
その他収入--174174
16,79915,70617432,679
支出原材料支出3,0674,001-7,068
人件費支出6,1242,053-8,177
その他業務支出3,9863,0417,030
貨幣法第 10 条に基づく国庫納付金の支払額-5,945-5,945
施設整備費3,335275-3,609
16,51115,315331,829

造幣局の

  • 原材料支出
  • 人件費支出
  • その他業務支出
  • 施設整備費支出

のそれぞれの支出額を

  • 1円
  • 5円
  • 10円
  • 50円
  • 100円
  • 500円

の発行枚数で按分して、総原価を算出します。

硬貨原材料支出
(円)
人件費支出
(円)
その他業務支出
(円)
1円2,935,8995,862,2063,815,603
5円58,717,781117,244,11276,312,056
10円1,056,920,0642,110,394,0241,373,617,012
50円82,204,894164,141,757106,836,879
100円1,549,139,4813,093,227,9692,013,325,716
500円317,081,891633,129,932412,092,735
合計3,067,000,0006,124,000,0003,986,000,000
施設整備費
(円)
発行枚数
(千枚)
1円3,192,4321,000
5円63,848,64720,000
10円1,149,275,648360,000
50円89,388,10628,000
100円1,684,506,087527,656
500円344,789,079108,002
合計3,335,000,0001,044658
1枚当たり製造原価
(円)
1枚当たり利益
(円)
1円15.8-14.8
5円15.8-10.8
10円15.8-5.8
50円15.834.2
100円15.884.2
500円15.8484.2
  • 1円
  • 5円
  • 10円

の硬貨は製造すればするほど赤字になりますが、その赤字を他の硬貨で補填出来ています。

市場価格を基にした硬貨の

  • 1枚当たりの原材料費
  • 硬貨一枚当たりの製造原価

は下記の通りです。

2020年5月時点円 / Kg当たり円 / g当たり
アルミニウム 1600.16
6100.61
亜鉛2600.26
ニッケル1,3301.33
5,930,0005,930
55,70055.7
硬貨重さ(g)原材料
アルミニウム(%)銅(%)亜鉛(%)ニッケル(%)
1円1100000
5円3.8070300
10円4.509550
50円4075250
100円4.8075250
500円707228

以上が、紙幣・硬貨の通貨発行権・製造についての説明になります。

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