インフレとは?デフレとは?図解でわかりやすく説明
テレビ・新聞・スマートフォンのニュース等々の経済情報では
- 物価
- インフレ(インフレーション)
- デフレ(デフレーション)
という単語が頻繁に飛び交っています。
これらの単語を正確に知る事で、
- なぜ、政府・中央銀行が物価を気にするのか
- インフレ・デフレは良いものなのか・悪いものなのか
- 物価の変動がどのように家計や企業に影響するのか
理解が深まります。
この記事では
- 物価・物価指数
- インフレ・デフレ
- 良いインフレ・悪いインフレ
それぞれに分けて説明していきます。
物価・物価指数
物価という単語は、物やサービスの価格をという広い意味を持つ単語になります。
経済学上での物価は、
- 経済全体での一般的な物価水準
- 種々の商品やサービスの価格をある一定の方法で総合した平均値
となっていますが、物価は
- 物・サービス
- 期間
- 地域
によって違うので、絶対的な価格というのはありません。
つまり、物価は
- 昨年
- 先月
- 昨日
と比較して上がった(下がった)を相対的に評価する事になります。
実際に物価を評価するときは、比較の基準時点を決め、その時の物価に対してどの程度上昇(又は下落)したかを比率の形で評価するのが一般的です。
物価指数
物価指数とは物価の動きを比率で表したものです。
例えば、2019年5月に10,000円で売られていたスマートフォンが2020年5月に10,200円で売られていた場合
10,000円 × X = 10,200円
X = 1.02(102%)
つまり、このスマートフォンの価格は対前年同月比で2%上昇したという事になります。
物価にも
- 生産者が出荷するときの生産者価格
- 卸売業者が小売店などに販売するときの卸売価格
- 小売店が消費者に販売するときの小売価格
商品の流通過程に応じて取引される商品の価格は異なるため、どの段階の物・サービスの価格を物価と呼ぶか定義付けする必要があります。
日本では
- 消費者物価指数・・・小売段階の財及びサービスの物価の動きを示す指数
- 企業物価指数・・・企業間で取引される財の価格に焦点を当てた指数
- 毎月、原則として第8営業日に、前月の速報値と前々月の確報値を日本銀行が公表
- 1,286品目、約3,000の調査先数、約8,700の調査価格数
- 企業向けサービス価格指数・・・企業間で提供されるサービスの物価変動を捉える指数
- 毎月、原則として第18営業日に、前月の速報値と前々月の確報値を日本銀行が公表
- 47品目、約900の調査先数、約3,500の調査価格数
があります。
財(モノ) | サービス | |
---|---|---|
企業段階 | 企業物価指数 (1897年より調査開始) | 企業向けサービス価格指数 (1991年より調査開始) |
消費者段階 | 消費者物価指数 |
消費者物価指数
日本における3つの物価指数の中で、消費者の生活に密接に関わってくるのは消費者物価指数です。
消費者物価指数は、
- 小売価格調査:全国から167市町村を選び、
- 小売価格はその中で代表的な小売店やサービス事業所約30,000店舗
- 家賃は約25,000世帯
- 宿泊料は約530事業者を対象
として約880名の調査員が調査。
価格は実際に販売している小売価格(特別セール売り等は除外) - 指数品目:消費者が購入する商品及びサービスの物価変動を代表できるように
- 家計支出上重要
- 価格変動の面で代表性
- 継続して調査可能
という観点から選んだ平常小売価格596品目及び、持ち家の帰属家賃4品目の合計600品目を対象
このように測定されてます。
また消費者物価指数は通常の総合指数(Consumer Price Index、略称:CPI)のほかに、
- 生鮮食料品を除く総合(コアCPI)
- 食料(酒類を除く)及び石油・石炭・天然ガスなどエネルギーを除く総合(コアコアCPI)
- 持ち家の帰属家賃を除いたもの
が日本では公表されています。
実質賃金・名目賃金
物価の動きは私たちの生活に直接影響を及ぼしています。
まず物価が上昇した場合を考えてみます。
2019年5月、ある会社員の
- 給料が20万円
- 大根が100円で販売
一年後の2020年5月
- 昇給無し
- 大根が110円で販売
されていた場合
2019年5月:20万円 ÷ 100円 = 2,000(個)
2020年5月:20万円 ÷ 110円 = 1,818(個)
昇級していないのにも関わらず、物価上昇のため、大根の購入出来る個数が減少しました。
この現象を「実質賃金が下がる」と言います。
実質賃金(じっしつちんぎん)とは、労働者が労働に応じて取った賃金が、実際の社会においてどれだけの物品の購入に使えるかを示す値で、賃金から消費者物価指数を除することで求められます。
実質賃金 = 賃金 ÷ 消費者物価指数
次に物価が下落した場合を考えてみます。
大根の購入出来る数が増加、実質賃金が上がりました。
つまり、
- 物価上昇・・・物・サービスの価値が上がるためお金の価値が下がる
- 物価下落・・・物・サービスの価値が下がるためお金の価値が上がる
という事が分かります。
インフレ・デフレ
インフレとはインフレーション(inflation)の略で、経済活動における物・サービス価格の上昇を意味します。
物価上昇により、お金の価値が物・サービスの価値よりも相対的に低下する為、インフレーションはお金の価値の低下と考えられます。
デフレとはデフレーション(deflation)の略で、インフレの反意語です。
物・サービス価格の下落を意味し、相対的にお金の価値が高まります。
物価の上昇・下落によって
- 物・サービスの購入個数が増減
- 実質賃金が上下
します。
消費者目線からは、物価下落のほうが、物・サービスの購入個数が増えるため得な気がします。
しかし、日本全体の成長を考え場合はどうなのでしょうか。
日本の経済活動を支えているのは、「銀行の銀行」と呼ばれている中央銀行の日本銀行(以下、日銀)です。
日銀の役割は大きく分けると
- 物価の安定
- 金融システムの安定
があります。
では、日本国民のためにどのような形で「物価の安定」を果たしているのでしょうか。
日銀における「物価の安定」とは下記の通りとなります。
- 「物価の安定」を定義すると、「家計や企業等の様々な経済主体が、物・サービス全般の物価水準の変動に煩わされることなく、消費や投資などの経済活動にかかる意思決定を行うことができる状況」
- 物価情勢を点検する際、物価指数としては、国民の実感に即した、家計が消費する物・サービスを包括的にカバーした指標が基本となり、この点、速報性を備えている消費者物価指数(総合)が重要
日銀はこうした認識を踏まえ、2013年1月の金融政策決定会合で、消費者物価の前年比上昇率2%を「物価安定の目標」をインフレターゲットとして導入しました。
インフレターゲット
何故、物価安定にデフレターゲットではなく、インフレターゲットなのでしょうか。
消費者目線からすれば、インフレよりデフレの方が物・サービスが安く購入できて良い気がしますが、日銀はインフレターゲットを導入しました。
それは、日銀が消費者だけでなく企業を含めた日本全体が経済成長出来るための金融政策を取る必要があるからです。
デフレの方が、物価が安くなり国民の消費意欲が増えて、インフレより日本の経済成長に貢献できると思う方がいるかもしれません。
短期的にはそうですが、日本の経済成長を考えた時、長期的なスパンで経済成長するように中央銀行も考えなくはなりません。
つまり、デフレターゲットでは長期的な経済成長が見込めないのです。
例えば日銀が前年比2%のデフレターゲットを導入したとします。
今、あなたが欲しい車が1000万円で販売されているとします。
日銀が前年比2%のデフレターゲットを導入している為、賢いあなたは1年待てば欲しい車が980万円になる可能性があることを知っています。
- 2年後には・・・980万円 × 0.98 = 960.4万円
- 3年後には・・・960.4万円 × 0.98 = 941.2万円
- 4年後には・・・941.2万円 × 0.98= 922.4万円
デフレターゲットを塾考した結果、「車は別に今すぐ必要というわけではないし、待てば車の値段も下がるから、今回は見送ろう」となる可能性があります。
これをデフレマインドと言い、消費者の消費意欲が低下し経済成長が見込めません。
次に、日銀の現在の政策目標である前年比2%のインフレターゲットを考えてみます。
あなたは1年待つと欲しい車は1,020万円になる可能性があることを知っています。
- 2年後には・・・1,020万円 × 1.02 = 1,040.4万円
- 3年後には・・・1,040.4万円 × 1.02 = 1,061.2万円
- 4年後には・・・1,061.2万円 × 1.02 = 1,082.4万円
インフレターゲットを塾考した結果、『今回車の購入を見送ってしまうと来年、再来年には車の値段がどんどん上がってしまうので今のうちに購入しよう』となる可能性が高いです。
インフレターゲットにより日本国民の消費意欲が刺激され経済が活発化していきます。
消費税が上がる前に「物・サービス」を買わせるための企業のキャンペーンなのです。
良いインフレ・悪いインフレ
インフレになる過程によって
- 良いインフレ
- 悪いインフレ
が存在します。
良いインフレ
物・サービスが生産者から消費者に届くまでの一連の流れをみていきます。
生産者(農家)は野菜を育てる為に種苗会社から種や苗を購入します。
生産者が種苗費(取得原価)40円に付加価値10円を乗せて
- 大根・・・1本 50円
- 人参・・・1本 20円
の生産価格で卸売市場に売ります。
必要経費(人件費も含む) + 利益 を加える手間賃の事です。
卸売業者は生産者から買い取った金額に付加価値を乗せて
- 大根・・・1本 90円
- 人参・・・1本 60円
の卸売価格で八百屋(小売業者)に売ります。
八百屋(小売業者)は、卸売業者から買い取った
- 大根・・・1本 90円
- 人参・・・1本 60円
に付加価値を乗せて
- 大根・・・1本 100円
- 人参・・・1本 70円
の小売価格で消費者に販売します。
いざ、八百屋を開店してみると、
- 1日目・・・
- 大根・・・いつもの2倍以上の売れ行き
- 人参・・いつも通りの売れ行き
- 2日目・・・
- 大根・・・いつもの3倍以上の売れ行き
- 人参・・いつも通りの売れ行き
あなたが八百屋の店長なら、3日目の大根の金額はどうしますか。
正解があるわけではないですが、大根の売れ行きが良いなら大根の値段を少し上げてみてもいいと思いませんか?
要は、大根の需要が高いため値段を上げるのです。
これは、人々の需要(消費)意欲がある良い値段の上がり方(良いインフレ)です。
デマンドプル(demand-pull)型インフレとも呼ばれています。
悪いインフレ
では、悪いインフレはどのように起こるのでしょうか?
良いインフレの大根の生産者から消費者までのプロセスでの
- 取得原価
- 付加価値
- 販売価格
- 購入価格
は下記の通りです。
取得原価 | 付加価値 | 販売価格 | 購入価格 | |
生産者 | 40円 | 10円 | 50円 | |
卸売業者 | 50円 | 40円 | 90円 | |
小売業者 | 90円 | 10円 | 100円 | |
消費者 | 100円 |
一方、悪いインフレのプロセスはどうでしょうか。
生産者が購入している種苗、これが外国の種苗会社で、大根1本当たりの取得価格が70円になったとします。
販売価格を上げ過ぎると購入して貰えなくなるので、付加価値をあまりのせる事が出来ません。
取得原価 | 付加価値 | 販売価格 | 購入価格 | |
生産者 | 70円 | 5円 | 75円 | |
卸売業者 | 75円 | 30円 | 105円 | |
小売業者 | 105円 | 5円 | 110円 | |
消費者 | 110円 |
次に付加価値に注目してみます。
良いインフレ | 悪いインフレ | |
---|---|---|
生産者 | 10円 | 5円 |
卸売業者 | 40円 | 30円 |
小売業者 | 10円 | 5円 |
合計 | 60円 | 40円 |
- 生産者
- 卸売業者
- 小売業者
それぞれの取得原価は良いインフレの時と比較すると高くなっており、付加価値をあまり乗せることが出来ず、且つ消費者の手元に届くころには、販売価格も普段より高くなっています。
また、消費者も価値観があり
- 90円だと安いからまとめ買いのチャンス
- 105円だと少し高いけど購入
- 110円だと購入を見送る
悪いインフレによる販売価格の上昇で消費者の買い控えが起き、消費が抑制される可能性もあります。
この悪いインフレでは、物価上昇はしたものの、
- 生産者・卸売業者・小売業者も儲かっていない
- 消費者も消費を抑制される
- 得をしたかもしれないのは外国の種苗会社だけ
となり、日本国内の生産者から消費者まで誰も得をしていません。
この物価上昇はコストプッシュ(cost-push)型インフレとも呼ばれています。
上記のように、インフレには
- 良いインフレ・・・経済が活性化し需要が供給を上回ることで物価が上昇するというインフレ
- 悪いインフレ・・・製品を作る際の費用が増加、生産費用の増大を賄うために物価が上昇するインフレ
があります。
日銀はインフレ前年比率2%上昇をターゲットにしていますが、悪いインフレによるインフレは望んでいません。
以上が、
- 物価・物価指数
- インフレ・デフレ
- 良いインフレ・悪いインフレ
それぞれの説明になります。
コメント